マレーシアで会社を作った後、「登記が終わったから、もう営業できる」と考えると危険です。
業種によっては、事業を合法に営むためのライセンスが別途必要になります。特に外資が入る物販・貿易系で必ず出てくるのがWRTライセンスです。
私のケースは流通・販売系だったため、この論点に正面から向き合うことになりました。この記事では、WRTライセンスとは何か、誰が対象で、いくら必要なのかを整理します。
⚠️ 前提
要件・費用は改定されます。この記事は2026年7月時点の調査と、2025年に設立した私自身の経験に基づく個人的な記録です。実際の申請にあたっては公式情報および有資格の専門家にご確認ください。
1. WRTライセンスとは
WRT は Wholesale, Retail and Trade の略で、日本語では「卸売・小売・貿易ライセンス」と呼ばれます。
外資が入っている企業が、マレーシア国内で物販・貿易系のビジネスを行うために必要な許認可です。所管は国内取引関連の省庁で、店舗を持つ小売、卸売、輸入販売などが対象になります。
重要なのは、これが「会社の登記」とは別の手続きだという点です。会社を作ることと、その会社が事業を営む許可を得ることは、別物です。
2. 誰が対象になるのか
ここが最も重要なポイントです。
外資比率が51%以上の企業は、ほぼ次のいずれかのライセンス申請対象になります。
| ライセンス | 対象となる事業 |
|---|---|
| WRT(卸売・小売・貿易) | 物販・貿易系のビジネス |
| USS(非規制サービス業) | サービス業 |
つまり、日本から100%外資で進出する場合は、ほぼ確実にどちらかに該当します。「うちは小さい会社だから関係ない」ということにはなりません。
自分の事業がWRTかUSSのどちらに該当するのか(あるいは別の規制業種なのか)を、設立前に確認しておく必要があります。
3. 資本金要件:最低RM100万
WRTライセンスで最も注意すべきなのが資本金です。
WRT・USSのいずれの場合も、最低RM100万(約25万米ドル)の資本金が必要とされています。
ここで思い出してほしいのが、EP(就労ビザ)取得の資本金水準は外資100%でRM50万が目安だという点です。つまり、
- EPのために必要な資本金 → RM50万
- WRT/USSライセンスのために必要な資本金 → RM100万
高いほうが実質的な必要額になります。 EP用にRM50万を用意しても、WRTが必要な業種ならそれでは足りません。
「会社法上はRM1で作れる」という情報だけを見て資金計画を立てると、ここで完全に破綻します。
4. 実体験:業種の確定に5ヶ月かかった理由
私の設立準備で最も時間を食ったのは、登記手続きではなく「事業内容と業種の確定」でした。相談開始から設立完了まで約9ヶ月かかり、そのうち書類準備と社内調整だけで約5ヶ月です。
なぜそんなに時間がかかったのか。理由は依存関係にあります。
- 事業内容が決まらないと、業種が決まらない
- 業種が決まらないと、必要な許認可(WRT/USS等)が決まらない
- 許認可が決まらないと、必要な資本金が決まらない
- 資本金が決まらないと、資金計画が立たない
この連鎖があるため、入口の「何をやる会社にするか」が曖昧だと、すべてが止まります。
逆に言えば、事業内容を明確にしてから相談に行けば、全体が一気に進みます。これが私の最大の学びでした。
5. 事業ライセンスは「複数種類」ある
もう一つ、混同しやすい点があります。WRT以外にも必要なライセンスがあるケースです。
- WRT/USS … 外資企業が卸売・小売・貿易やサービス業を営むための連邦レベルの許認可
- ビジネスライセンス(事業所ライセンス) … 店舗や事業所を置く地方自治体(PBT)に対して取得するもの
- 名称利用のライセンス … 法人名とは別の屋号(店舗名)を使う場合に自治体へ申請するもの
- 業種別の規制 … 製造業ならMIDA、飲食なら衛生関連など、業種ごとの規制
つまり、「連邦レベル」と「自治体レベル」の2階層があります。片方だけ揃えても営業はできません。
なお、費用面ではビジネスライセンスは初回に数千RM〜、更新も毎年発生するのが一般的です。ライセンスは取得して終わりではなく、維持コストが発生する点も押さえておいてください。
6. 順序:会社設立 → ライセンス → EP
実務の流れとしては、次の順序になります。
- Sdn Bhd(現地法人)を設立
- 払込資本金を必要水準まで用意(許認可の水準を満たす額)
- 事業ライセンス・許認可を取得(WRT/USS、自治体のビジネスライセンス等)
- 外国人就労ポストを申請
- EP(就労ビザ)を申請
ライセンスがEPより先に来る点に注意してください。事業の許可がない会社が、外国人を雇う許可を得るのは筋が通りません。 会社の実体(オフィス・事業内容・雇用計画)が問われるのも同じ理由です。
私自身、現在この3〜5の段階を進めているところです(設立からEP取得までの全手順、払込資本金の目安、EPの取得条件もあわせてご覧ください)。
7. これから設立する人へのチェックリスト
- 自社の事業がWRTかUSSか、あるいは別の規制業種かを最初に確認する
- 外資比率が51%以上ならほぼ対象という前提で考える
- 資本金はEP用とライセンス用の高いほうを基準にする(WRTならRM100万規模)
- 自治体のビジネスライセンスも別途必要。更新費用も見込む
- 屋号を使う場合は名称利用のライセンスも忘れない
- 何より、事業内容と業種を先に固める(すべての金額がここから決まる)
まとめ
- WRTは外資企業が卸売・小売・貿易を行うための許認可。サービス業はUSS
- 外資比率51%以上はほぼ対象になる
- WRT/USSは最低RM100万の資本金が必要。EP用のRM50万では足りない
- ライセンスは連邦レベルと自治体レベルの2階層があり、両方必要
- 順序は設立 → 資本金 → ライセンス → 就労ポスト → EP
- 業種の確定がすべての起点。ここが曖昧だと全部止まる
免責事項:本記事は筆者個人の体験と調査に基づく情報提供であり、法務・税務に関する助言ではありません。要件・費用は変更される場合があります。実際の申請にあたっては、公式情報および有資格の専門家に必ずご確認ください。

