「マレーシアに法人を作るのに、結局いくらかかって、どれくらい時間がかかるのか」
私がこれを調べ始めたとき、一番知りたかったのがこれでした。ところが、出てくるのは「◯◯リンギットから」という業者の料金表か、制度の解説ばかり。実際に一人の人間が動いて、何ヶ月かかり、どこでお金と時間を失ったのかという記録が、ほとんど見つかりませんでした。
なので、自分の記録を残しておきます。
私は2024年11月に相談を始め、2025年8月にマレーシア現地法人(Sdn Bhd)の設立を完了しました。ここまで約9ヶ月。そして設立後に始めた銀行口座の開設は、半年以上たっても終わりませんでした。
この記事では、その全記録を月単位で公開します。
⚠️ 前提
私のケースは「流通・販売系(WRTが絡む業種)/役員複数名/日系の会計コンサルに依頼」という条件です。業種・体制・依頼先で費用と期間は変わります。また金額は依頼先との守秘の関係でレンジ表記にしています。制度や料金は改定されるため、必ず最新の見積もりを取ってご判断ください。
結論:時間の内訳が、想像と違った
先に結論を書きます。私が一番驚いたのは、時間がかかった原因の大半が「マレーシア側の手続き」ではなかったことです。
- 登記そのもの(SSMへの手続き)は、書類が揃えば早い
- 長かったのは、自分側の意思決定と書類準備(約5ヶ月)
- そして最後に立ちはだかったのが、銀行口座(半年以上)
つまり「設立に9ヶ月」と言っても、役所待ちで9ヶ月かかったわけではありません。ここを誤解すると、スケジュールの立て方を間違えます。
1. 月単位の全記録
| 時期 | やったこと | かかった期間 |
|---|---|---|
| 2024年11月 | 知人の紹介で日系の会計コンサルに初コンタクト。事業内容と進出形態の相談 | ― |
| 2024年12月 | 対面で打ち合わせ。見積(料金表)を受領し、依頼するか検討 | 約1ヶ月 |
| 2025年1月〜5月 | 社内調整、必要書類の記入・収集、設立要件の詰め(法人名と店舗名の扱い、役員構成など) | 約5ヶ月 |
| 2025年6月〜7月 | 書類の最終確認、登記手続きへ | 約2ヶ月 |
| 2025年8月 | 現地法人(Sdn Bhd)設立完了 | 相談開始から約9ヶ月 |
| 2025年8月末〜 | 銀行口座の開設に着手(Maybank、オンライン申請から) | ― |
| 〜2026年 | 現地に複数回渡航して面談。それでも半年以上たって未完了 | 6ヶ月以上 |
なぜ1月〜5月に5ヶ月かかったのか
ここが最大の反省点です。原因は3つありました。
役員を複数名にしたこと。 これが一番効きました。役員を増やすと、全員分の必要書類を揃える必要があり、パスポート、住所証明といった書類を人数分、それぞれのスケジュールで集めることになります。1人が遅れると全体が止まります。今なら、まず最小構成で設立し、あとから役員を追加するという判断をします。
事業内容と業種の確定に時間がかかったこと。 業種によって必要な許認可(WRTなど)と資本金の水準が変わるため、「何をやる会社にするか」を詰めないと前に進めません。ここは設立作業ではなく事業計画の作業です。
日本側の社内調整。 本業を動かしながら進めるので、どうしても後回しになる期間が発生しました。
教訓:設立を早めたいなら、マレーシア側を急かすのではなく、自分側の準備を前倒しする。ここが9ヶ月の実感です。
2. 費用の全内訳
費用は3つに分けて考えないと、予算を見誤ります。イニシャル(初期)・ランニング(維持)・隠れコストです。
① イニシャル:設立時に一度だけかかるもの
| 項目 | 費用のイメージ | 補足 |
|---|---|---|
| 法人設立(Sdn Bhd) | RM1万台前半〜 | 定款・議事録作成などを含む |
| 事業ライセンス(ビジネス/WRT等) | 数千RM〜RM1万台 | 業種と自治体で変動。流通・小売系は高くなりがち |
| 銀行口座開設サポート | RM2,000前後/口座 | 「代行」ではなく資料準備のサポート |
| 会計まわりの初期設定・各種登録 | 各RM1,000〜1,500前後 | 会計システム/法人税登録/EPF・SOCSO登録など |
| 払込資本金 | 私の場合は100万円 | 業種と許認可次第で大きく変わる(後述) |
② ランニング:毎月・毎年かかり続けるもの
ここが最大の落とし穴です。 設立費用は一度きりですが、こちらは会社がある限り払い続けます。
| 項目 | 費用のイメージ |
|---|---|
| 月次顧問(日本語対応の窓口) | RM1,500前後〜/月 |
| 現地役員(居住取締役)+会社秘書役 | 合わせて月RM1,000台後半〜 |
| 記帳代行 | 月RM数千(仕訳量で変動) |
| 決算・監査・法人税申告など | 年RM数千〜(項目ごと) |
正直に言うと、設立費用より、この維持コストのほうが判断として重かったです。年間で積み上げると相応の金額になり、しかも売上がゼロでも発生します。「法人を持つ=固定費を抱える」という感覚は、日本で会社をやっている人にはむしろ分かりやすいはずですが、海外だと為替と渡航費も乗るのが違いです。
③ 隠れコスト:見積書に載らないお金
私が事前に計算に入れていなかったものです。ここを忘れると予算が崩れます。
- 渡航費・滞在費:銀行の本人確認などで現地へ複数回。航空券と宿泊が積み上がります。私の場合、口座開設が長引いたぶんだけ渡航回数も増えました
- 増資のための資金:後述しますが、EP申請や許認可の段階で資本金の追加が必要になります
- 日本側の税務・法務の相談費用:海外法人を持つと日本側の申告にも影響します。ここは日本の税理士に確認が必要です
- 通信・翻訳・書類取得の実費:戸籍や住所証明、英訳、郵送など。個々は小さいですが積み上がります
- 時間というコスト:これが最大です。5ヶ月の準備期間、複数回の渡航、半年以上の口座待ち。本業の時間を確実に食います
3. 資本金は「設立時=必要額」ではない
費用の話で一番注意してほしいのがここです。
私はまず資本金100万円で設立しました。設立自体はこの規模で可能です。ところが、
- 業種によっては許認可の関係で3,000万円規模の資本金が求められることがある
- EP(就労ビザ)取得の前提としても、一定の払込資本金が必要になる
つまり、「安く設立できた」と思っていても、本格稼働やEP申請の段階で増資が必要になります。私自身、この先の増資を見据えているところです。
予算を組むときは「設立費用+維持費」ではなく、「設立費用+維持費+将来の増資」で見てください。 ここを見落とすと、走り出してから資金計画が崩れます。
詳しくはこちら → [EP取得の最低資本金はいくら?外資100%/合弁で違う要件 →記事#4]
4. 最大の誤算:銀行口座に半年以上
設立が終われば事業が始められる——そう思っていました。これが最大の誤算でした。
会社の登記は2025年8月に完了しましたが、そこから銀行口座が開かないと、実質何も動かせません。入金も支払いもできないので、事業は止まったままです。
私の場合、8月末に着手して、半年以上たっても完了しませんでした。理由は複合的です。
- 本人確認のために現地(KL)へ何度も足を運ぶ必要があった
- アポを取っていても銀行側の進行が予定どおりでない(時間にはかなりルーズな印象)
- 理事会決議に会社秘書役の承認が必要だったり、署名権者の情報登録を求められたりと、書類の往復が多い
拍子抜けしたのは、実際に署名する書類自体はかなり簡素だったこと。手続きの重さと書類の軽さのギャップが印象的でした。
これから設立する人へ:スケジュールは「設立完了=事業開始」ではなく、「口座開設完了=事業開始」で引いてください。 私の感覚では、設立完了からさらに数ヶ月〜半年の余裕が必要です。
詳細はこちら → [現地の法人・個人銀行口座開設でつまずいた話 →記事#9]
5. コラム:法人を作れば現地でローンが組める、わけではない
「現地法人を作れば、マレーシアで不動産ローンが組めるのでは」と考える人もいると思います。私も気になって確認しました。
聞いた話では、日本法人49%・現地法人51%といった資本構成であれば法人でのローンは可能とのことでしたが、条件として銀行に対して3年間の事業実績を提示する必要があるとのことでした。
つまり、作ったばかりの会社ではまず借りられないということです。法人を不動産購入の手段として考えている場合、この「3年」という時間軸は計算に入れておく必要があります。
※これは私が相談の中で聞いた内容で、銀行や時期によって条件は変わります。実際の融資は各金融機関に直接ご確認ください。
6. これから設立する人へのチェックリスト
私の9ヶ月を踏まえて、先に決めておくと早いことをまとめます。
- 役員構成を最小限にする(書類が人数分必要。あとから追加も可能)
- 事業内容と業種を先に確定させる(許認可と資本金の水準が決まる)
- 資本金は「増資前提」で資金計画を立てる
- 渡航費を予算に入れる(口座開設で複数回は避けられない)
- 維持コストの年額を先に計算する(売上ゼロでも出ていく)
- 口座開設に数ヶ月〜半年の余裕をスケジュールに入れる
- 日本側の税務influenceを日本の税理士に確認する
7. まとめ:数字で言うとこうなります
- 相談開始から設立完了まで:約9ヶ月(うち自分側の準備で約5ヶ月)
- 設立完了から口座開設まで:半年以上(未完了)
- 初期費用:設立・ライセンス・各種登録で数万リンギット規模+資本金
- 維持費:月次顧問・現地役員・秘書役・記帳で毎月、決算・監査・申告で毎年
- 隠れコスト:渡航費、将来の増資、日本側の税務相談、そして時間
「思ったより時間がかかる」——これが9ヶ月を通しての一番正直な感想です。逆に言えば、時間を見積もれていれば、慌てずに進められます。この記録が、その材料になれば嬉しいです。
設立そのものの流れや制度の全体像は【実録】マレーシアで現地法人(Sdn Bhd)を設立するまで|EPルート完全ガイドに、MM2Hとの比較はMM2HとEP、どっちでマレーシア移住する?にまとめています。
免責事項:本記事は筆者個人の体験に基づく情報提供であり、法務・税務・移民に関する助言ではありません。金額・期間はあくまで筆者のケースであり、業種・体制・時期により異なります。制度・料金は変更される場合があります。実際の手続きにあたっては、公式情報および有資格の専門家・認定エージェントに必ずご確認ください。
