MM2HとEPどっち?マレーシア移住ビザの決定的な違い

マレーシア移住を具体的に考え始めると、ほぼ全員がこの分かれ道に立ちます。

MM2Hを取るべきか、それとも現地法人を作ってEP(就労ビザ)を取るべきか

結論から言うと、判断はほぼ1点で決まります。それは「マレーシアで働くのか、働かないのか」です。そしてもう一つ、多くの人が見落としている決定的な条件があります——MM2Hでは、マレーシア法人の役員(Director)になれません

私自身、この分かれ道で悩んだ末にEPルート(現地法人+就労ビザ)を選び、2025年に法人設立まで完了しました。この記事では、制度の違いを整理したうえで、どちらを選ぶべきかの判断軸を、当事者の視点でまとめます。

⚠️ はじめに

MM2Hの条件は2021年以降、何度も改定されています。この記事は2026年7月時点で調べた内容ですが、閲覧時点では変わっている可能性が高い制度です。申請前には必ず公式(マレーシア観光芸術文化省MOTAC/OSC MM2H、内務省ESD)と認定エージェントで最新条件をご確認ください。


結論:3つの質問で決まります

MM2H と EP、どちらを選ぶか(3つの質問で決まります)マレーシア移住のビザを選ぶQ1マレーシアで事業を運営する、または働くつもりか?はいいいえQ2現地法人の役員(Director)になる必要があるか?はいいいえQ3収入は配当・家賃・年金などの不労所得だけで完結するか?はいEPEPMM2H※ 新MM2Hでは法人のDirectorになれません(報酬ゼロでも不可)いいえ条件を整理して専門家に相談判断の軸はこの3つだけ・働く/経営する → EP(現地法人の設立が前提。法人がないと申請できません)・働かない/資産収入だけ → MM2H(定期預金と不動産購入が必要)・法人の役員になる必要がある → MM2Hは選べません(ここが最大の見落としポイント)

複雑に見えますが、判断はシンプルです。

  1. マレーシアで事業を運営する、または働くつもりか? → YESなら EP
  2. 現地法人の役員(Director)になる必要があるか? → YESなら EP(MM2Hでは不可)
  3. 収入は配当・家賃・年金などの不労所得だけで完結するか? → YESなら MM2H で足ります

ひとつでもYESが1・2にあるなら、MM2Hは検討対象から外れます。逆に「働かない・経営しない」なら、法人を作る必要はありません。


1. MM2HとEPは、そもそも別カテゴリの制度

同じ「マレーシアに住むためのビザ」ですが、設計思想がまったく違います。

MM2HEP(Employment Pass)
制度の目的長期滞在(セカンドホーム)就労許可
就労不可(原則)
法人の役員(Director)なれないなれる(むしろ役員として取得が一般的)
必要な資金定期預金+不動産購入会社の払込資本金
申請主体個人法人(会社が申請)
想定される収入配当・家賃・年金などの不労所得現地法人からの給与
家族の帯同扶養家族として可Dependent Passで可

一番大事なのは申請主体です。MM2Hは個人で申請できますが、EPは会社がないと申請できません。だから「マレーシアで事業をやりたい」なら、まず現地法人(Sdn Bhd)を作る、という順序になります。


2. 【最重要】MM2Hでは現地法人の役員になれない

ここが、この記事で一番お伝えしたいポイントです。

旧MM2Hの条件では役員就任について明記がなく、実務上は任命できていたようです。ところが新MM2Hの条件では、マレーシア法人のDirector(役員)になれないことが明記されました

さらに重要なのは、「役員報酬をゼロにすれば大丈夫」という回避策も通らないことです。報酬の有無ではなく、役員になること自体が認められません。

これが意味するのは、こうです。

  • 現地に会社を作り、自分が役員として経営する → MM2Hでは不可
  • 現地の事業運営に関わらず、資産収入だけで暮らす → MM2Hで

「MM2Hを取って、ついでに現地で会社も作って社長をやろう」という発想は、制度上成立しません。ここを知らずにMM2Hを申請してしまうと、事業計画そのものが行き詰まります。


3. MM2Hの現行条件(2024年の再編以降)

MM2Hは2024年の改定でシルバー・ゴールド・プラチナの3階層に再編され、その後特別区域向けのSEZ/SFZが加わって4カテゴリーになりました。要件の主な要素は定期預金・不動産購入・政府手数料の3つです。

カテゴリー定期預金不動産購入(最低額)特徴
シルバー必要(額はカテゴリ別)RM60万以上一番人気の入口
ゴールド必要RM100万以上中間層
プラチナ100万米ドルRM200万以上20年間の更新可能な滞在。富裕層向け
SEZ/SFZ区域ごとの規定特別区域で開発業者から直接購入金融・資産管理に特化。SFZはファミリーオフィス優遇税制あり

見落としやすい注意点

  • 不動産購入が必須になりました。 旧制度は定期預金だけでよく、不動産購入義務はありませんでした。ここが最大の変更点です
  • 50歳未満は年間90日以上の滞在が必要です
  • 年齢に関係なく、医療保険の加入証明と健康診断書が必要です
  • 定期預金は50%を引き出せますが、用途は不動産購入・教育費・医療費に限定されています
  • 2025年5月のMOTAC発表により、MM2H承認前2年以内に購入した住宅も引き出しの対象になりました(特別区域カテゴリーは6か月以内)
  • マレーシア警察(PDRM)によるランダム面接が導入され、申請時に職業・収入・扶養家族に関する追加情報の提出を求められる場合があります
  • サラワク州のS-MM2Hは別制度です。2026年1月1日から一律RM50万の定期預金が必須になりました

「緩和された」は半分だけ本当

MM2Hは月収要件が撤廃された経緯もあり、「緩和された」と言われることがあります。ただ実態としては、誰でも入りやすくなったわけではなく、まとまった資金を持つ人向けの制度に再設計されたと見るのが正確です。定期預金と不動産購入の合計で、シルバーでも相応の資金を用意する必要があります。

また、不動産購入が必須になったことで、物件価格の変動リスクを負う制度になった点も見逃せません。外国人の最低購入価格規制はエリアごとに定められているため、購入したいエリアの規制も併せて確認が必要です。


4. EPの前提:法人がないと始まらない

EPは会社が申請するビザなので、順序としては「現地法人(Sdn Bhd)を設立 → 払込資本金を用意 → 事業ライセンス・就労ポスト → EP申請」となります。

設立には現地居住の取締役と会社秘書役が必須で、払込資本金の水準は業種や外資比率で変わります。私が実際に設立した記録は【実録】マレーシア会社設立とEP取得の全手順にまとめています。設立の流れ・必要な体制・つまずいた点まで具体的に書いています。


5. お金の「性質」がまったく違う

見落としがちですが、両者はかかるお金の性質が違います。ここを混同すると資金計画を誤ります。

MM2H=資金を「拘束」される定期預金と不動産に大きな金額を置く必要があります。消えるお金ではありませんが、自由に動かせなくなるのがポイント。加えて不動産は価格変動リスクを伴います。

EP=毎月・毎年の「固定費」が続く資本金の拘束はありますが、それ以上に効いてくるのが維持コストです。日本語対応の顧問料、現地役員(居住取締役)と会社秘書役の費用、記帳代行、決算・監査・法人税申告——これらが毎月・毎年ボディブローのように積み上がります。私の実感として、設立費用よりこちらのほうが重い判断材料でした。

つまり、MM2Hは「資産を置く」制度、EPは「固定費を払い続ける」制度です。手元資金は厚いが継続収入が細い人はMM2H、事業で固定費を回収できる人はEP、という整理ができます。


6. 私がEPルートを選んだ理由

私の場合は、判断はあっさり決まりました。

日本で営んでいる事業をアジアに広げるための拠点として現地法人が必要で、しかも自分が役員として経営に関わる前提だったからです。この時点でMM2Hは制度上使えません。将来的な移住も視野に入れていたので、「事業をやるならEP」という一択でした。

正直に言えば、MM2Hのほうが手続きは単純です。法人設立・現地役員の選任・会計や監査の体制構築といった手間はかかりません。それでもEPを選んだのは、やりたいことが「住むこと」ではなく「事業をすること」だったからです。

逆に言えば、目的が「暮らすこと」なら、わざわざ法人を作るのは遠回りになります。


7. どちらを選ぶべきか

MM2Hが向いている人

  • リタイア後・FIRE後で、現地で働く予定がない
  • 収入は配当・家賃・年金などの不労所得で完結している
  • まとまった資金を定期預金と不動産に置ける
  • 手続きをできるだけシンプルにしたい
  • 教育移住が目的で、親は現地で就労しない

EP(現地法人)が向いている人

  • マレーシアで事業を運営する/働く
  • 現地法人の役員になる必要がある
  • 事業収入で維持コストを回収できる見込みがある
  • 日本の事業のアジア展開拠点をつくりたい
  • 資産を拘束するより、事業に資金を使いたい

8. よくある誤解

  • 「MM2Hがあれば現地で働ける」 → 働けません。就労には別途EPなどが必要です
  • 「役員報酬をゼロにすれば役員になれる」 → なれません。報酬の有無は関係ありません
  • 「MM2Hは緩和されたから取りやすい」 → 資金要件は軽くありません。不動産購入も必須です
  • 「EPは個人で申請できる」 → できません。会社が申請主体です
  • 「不動産を買えばMM2Hが取れる」 → 定期預金・保険・健康診断・面接など他の要件も揃える必要があります

9. まとめ

判断軸をもう一度整理します。

  • 働く・経営する → EP(現地法人が前提)
  • 働かない・資産収入だけ → MM2H
  • 法人の役員になる必要がある → MM2Hは選べない

EPルートを選ぶ場合の具体的な手順はこちらの実録記事で解説しています。どちらが優れているという話ではなく、目的が違えば答えも違うというだけのことです。ただ、MM2Hの「役員になれない」という条件は情報として広まっていないので、事業を考えている方は特にご注意ください。

そして最後にもう一度。MM2Hは改定が頻繁で、EPの資本金要件も変わります。この記事の数字を信じて申請するのではなく、必ず最新の公式情報と専門家で裏を取ってから動いてください。 私自身も、動くたびに前提が変わる経験を何度もしています。


免責事項:本記事は筆者個人の体験と調査に基づく情報提供であり、法務・税務・移民に関する助言ではありません。制度・要件・金額は変更される場合があります。実際の手続きにあたっては、公式情報および有資格の専門家・認定エージェントに必ずご確認ください。

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